世界初4年連続ヴェネツィア国際映画祭XR部門ノミネートのVRアニメーション監督・伊東ケイスケ氏に聞くXRの可能性

株式会社CinemaLeapと株式会社Psychic VR Labが2社で共同製作したVRアニメーション『Sen』が、第80回ヴェネチア国際映画祭エクステンデッドリアリティ(XR)部門「Venice Immersive」にノミネートされた。同じ監督による本映画祭XR部門への4年連続でのノミネートは世界初。

『Sen』は、「千利休の所持した樂長次郎 黒樂茶碗『万代屋黒』をモデルにしたお茶碗型の触覚デバイス」を用いて、VR空間で複数人同時に日本のお茶の世界を体験し、日本伝統の茶道の世界を通して生命と宇宙の繋がりを体験する作品だ。

体験者は、手に茶碗型のデバイスを持ち、心拍を検知するバンド(Google Pixel Watch)を手首に巻いた状態で、頭にはVRヘッドセットを装着して本作を鑑賞する。バンドで取得した体験者の心拍データはリアルタイムでメタバースに通信・共有され、鼓動データが映像内の光に変換される。メタバース上で互いの鼓動を視認し、協力して音楽を奏でることで、生々しい心臓の鼓動を感じることができる。今後は、Googleのクラウドレンダリングにも対応する予定だ。

本作を監督したのは、XRアーティストとして活動する伊東ケイスケ氏。「物事に集中すると、自分の鼓動だけが聞こえるようになるときがある。そのときの心地よさというか気持ちの良い感覚を表現できたら、という思いで本作を作りました」。XRのインタラクティブ性に着目して作品を作り続けてきた伊東監督は、「もっといろんな技術が出てきて、いろいろな相互作用ができるようになると思う。たとえば、体験者の行動次第でマルチに物語が分岐してエンディングが変わる作品など、増えてくると思います」と語る。「その場その場で起きることが違うのがXR作品の醍醐味。昨年制作した『Typeman』は、大枠だけ作って、入ってくる人によって物語や解釈が違ってくることが面白さの肝だと思う」と、XR作品の魅力を語る。

作品を通じてXRの可能性を広げていきたいという伊東監督。「個人的にですけど、キャラクターが好きなので、VRでしか見られないスターキャラの存在が、VRやXRの普及には欠かせないと思っています。そういう存在がどこかから出てきてくれるのか…僕自身がチャレンジするか。もしデバイスが小さく軽くなっても、コンテンツがないとXR作品は広く見られないだろうな、と思います」「僕自身は、まず作品を作り続けること。続けることが何より大事と思っています」。

『SEN』が上映されるヴェネチア国際映画祭は、本年で80回を迎える世界最古の歴史を誇る映画祭であり、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭の一つ。本年は8月30日(水)から9月9日(土)まで開催される。本映画祭のXR部門は2017年に新設され、本年で7回目。本年度の「Venice Immersive」は、ラッヅァレット・ヴェッキオ島(Venice Immersive Island)で開催され、ワールドプレミアまたはインターナショナルプレミアとして最大44件のイマーシブ・メディア・プロジェクトがコンペティションに出展される予定だ。360度ビデオ、インスタレーションやバーチャルワールドを含む、あらゆる長さの3DoFおよび6DoFのインタラクティブXR作品が対象となる。受賞作品の結果発表は9月9日(土)に行われる。

<作品概要>
『Sen』
茶碗から生まれた茶の精霊“Sen”。最初は恐る恐る世界を知っていく“Sen”だが、さまざまな存在に関わることによって、自分が存在することの喜びを知る。美しい世界が目まぐるしく変わる中、“Sen”は自分たち以外に、同じような存在がこの世界に存在していることに気付く。他の存在との繋がりや関わりが心地よく、自己中心的に目の前の存在と関わることばかりを考えるようになったある日、突然、心地の良い世界が大火によって消失してしまう。何もかも失った“Sen”は茶碗の中に落ち、自分の存在が宇宙の中で粒子となり溶けていってしまい――。

監督:伊東ケイスケ
1986年生まれ。多摩美術⼤学グラフィックデザイン学科卒業。メーカーのグラフィックデザイナーを経て、現在はXRアーティストとして活動する。これまでヴェネチア国際映画祭やカンヌ国際映画祭、世界最大のCGの祭典SIGGRAPHなどで上映。ヴェネチア国際映画祭のVR部門では2020年より自身が監督を務めるVRアニメーション作品で3年連続ノミネート。2019年に『Feather』が第76回ヴェネチア国際映画祭にて、VR部門では日本人初のビエンナーレカレッジセレクションとしてプレミア上映。2020年に『Beat』は第77回ヴェネチア国際映画祭のVR部門、およびカンヌXR VeeR Future Award 2021にノミネート。2021年に『Clap』は第78回ヴェネチア国際映画祭のVR部門、およびカンヌXR VeeR Future Award 2022にノミネート。2022年『Typeman』が第79回ヴェネチア国際映画祭のXR部門にノミネート。
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