ホリプロが挑む新しいエンターテイメントの形「イマーシブ演劇」。試行錯誤を経てたどり着いた最初のステージが2025年3月に公演される。その経緯と思いについて、ホリプロの執行役員で公演事業本部長の篠田麻鼓氏と、本作のプロデューサーを務める小成紀保子氏に話を聞いた。
(写真=三橋優美子)

ホリプロでは2025年3月27日(木)~3月30日(日)の4日間限定で、体験型コンテンツクリエイターのきださおり氏が率いる株式会社夕暮れとタッグを組んだイマーシブ演劇『RE:PLAY AFTER SCHOOL』を上演する。ホリプロとして初めて「イマーシブ」をテーマにした没入型の演劇だ。自社劇場を持たないホリプロにとって、場所を選ばないエンターテイメントの創造は一つの大きな挑戦となる。
篠田「コンテンツを作って、カフェや病院など、場所を選ばずお届けできるこのイマーシブという形態を知ったときに『これだ!』と思いました。私たちにうってつけだなと。やりたい、やりたいと思っていたらコロナ禍になってしまい、今ようやく、初めてお届けできることになりました」
イマーシブ演劇『RE:PLAY AFTER SCHOOL』で観客は、「藤ノ花学園」で行われるオープンアフタースクールという、生徒や先生と一緒に部活動を体験するイベントに参加する。観客は複数のグループに分かれ、それぞれの部活の生徒とのコミュニケーションを重ねながら学園内で起こる物語に触れていくことになる。
小成「生徒さんたちとコミュニケーションを取っていって、『この学校で今何が起こっているんだろう』『もしかしたら何か問題が起こっちゃってるのかな』と想像しながらクライマックスを迎えていくのが大きな見どころです。ちょっとミステリーのような要素もあったり、本作は怖くないものの、形式としてはお化け屋敷なんかが近いかもしれないですが、これまで上演されてきた舞台などとはまったく違う、新たな演劇として楽しんでいただけると思います」

新たな形式での演劇は、これまでとは大きく異なる準備が必要だったという。
篠田「ホリプロには45年も舞台を作り続けてきた経験がありますが、本当に全然違う。まず脚本から違います。観客がどの部活のコースに参加するか、から始まって、そこから何通りにも分岐していく。脚本の確認に、ものすごい時間がかかりましたよ(笑)。参加するたびに語られる内容が違いますし、同じ出来事でも人によって見え方が違う。登場人物によって同じ真実が違うように見えているので、その断片断片を拾っていくのが面白いんです」
小成「一人で参加されても楽しいですし、私のおすすめはグループで参加いただいて、それぞれ違うコースに申し込んでいただき、後で答え合わせみたいなのをしていただけると、より楽しいんじゃないかなと思いました」
新たな形式の演劇は、演じる側の苦労も相当だ。
篠田「観客のすぐ隣に演者がいることになるので、舞台での発声方法やお芝居だと大きすぎてしまって、没入できなくなってしまう。観客の方がふいに話しかけてくることにも、その登場人物として対応する必要があるので、脚本にない部分でも、たとえば誕生日から好きな色まですぐに答えてもらう必要があって、演者さんたちにはそんな役作りにも時間をかけていただきました」
小成「今回は、もともとの演者さんの趣味や嗜好に近い設定で役作りをしていった部分も多いですね。好きな映画があるなら、登場人物もその映画が好き。ご本人からも『このほうが話しやすい』という提案をいただいて変更したこともありました」

篠田「演者さんには、タイムキープのスキルも求められました。複数のグループに分かれて、このグループは視聴覚室で、別のグループは教室で、バラバラの場所で同時多発的に物語が進行していきます。それぞれ、即興で観客とコミュニケーションしながら、『このタイミングまでには、この情報を伝えて』とか、『これがはじまったら2分で次にいって』とか」
小成「稽古を見ていると、本当にすごい。違うチームがそれぞれのストーリーを進めながら、ちゃんと出会うべきタイミングで別のグループ同士が出会ったり、全貌を見ていると本当にすごいことをやっているんだなと実感します」
実際の学校や病院、カフェなど、イマーシブ演劇ならではの「舞台」もポイントの一つだ。
篠田「廃墟ではなく、実際に運営している施設の中でやることで、没入感がさらに増していきます。今回の学校も、春休みの期間を利用して舞台とさせていただくのですが、実際に学校で使われている備品をお借りしたり、そういうディティールが作品の質を高める。先生方のご協力なくしては絶対に成立しないので、本当に感謝しています」
小成「お忙しい中、毎日のように連携させていただいて、何度も会場に足を運ばせていただきました。『ここからここまで歩いて何秒』みたいなことがすごく重要になるので。今回の学校であれば、学校の校門をくぐるところからすでに物語が始まっていると言っていいと思います」
篠田「ホリプロとしても、イマーシブ演劇ははじめの一歩。観客の皆さまにも、ぜひたくさんフィードバックをいただきたいと思っています。今後のモノづくりにも絶対に生きてくるはずですし、何よりも今回の一回で終わらせたいとは思っていないので、学校シリーズだけでなく、病院とか美術館とか、美容院とか、さまざまな場所で展開していきたいと思います」
プロフィール
篠田麻鼓(しのだ・あさこ)
株式会社ホリプロ執行役員 公演事業本部長
株式会社ホリプロ入社時より舞台・ミュージカルの制作に携わり、プロデューサー、部長を経て執行役員公演事業本部部長に就任。プロデューサーとして担当した作品:『ラブ・ネバー・ダイ』『メリー・ポピンズ』『マシュー・ボーンの「ドリアン・グレイ」』『100万回生きたねこ』『わたしは真悟』『ねじまき鳥クロニクル』他多数。
小成紀保子(こなり・きほこ)
株式会社ホリプロ公演事業部ファクトリー部
株式会社ホリプロに入社後、公演事業本部内で、舞台制作、WEB、補助金申請など、様々な業務を経験。学生時代から劇場以外の場所で上演する演劇に興味を持ち、今回イマーシブ演劇『RE:PLAY AFTER SCHOOL』で初めてプロデューサーを務める。
<公演概要>
期間:2025年3月27日(木)~3月30日(日)
会場:千代田中学校・高等学校(令和7年4月より当名称に学校名を変更予定)
チケット(税込):
・VIPチケット:平日10,000円/休日10,500円(完売)
・一般チケット:平日7,500円/休日8,000円
・U-25チケット(25歳以下限定):平日休日共通6,000円
・Yチケット(20歳以下限定):平日休日共通:2,000円(完売)
作品HP https://horipro-stage.jp/stage/immersive_vol1/
<キャスト>
赤嶺 亜里紗
天野 旭陽
おかもとえみ
河村 悠輝
菊地 麻衣
佐久間 麻由
佐倉 はるく
笹川 幹太 ※スウィング
島田 裕仁
鈴木 ぱんだ
鈴木 悠利
外原 寧々
中村 海琉
橋本 悠希
福山 香温 ※スウィング
村岡 哲至
山本 華菜乃
(五十音順)
※スウィングキャストも全公演出演致します
<スタッフ>
総合脚本・総合演出:きださおり
脚本・演出:川尻恵太
演出・演技指導:佐野 功
公演アートディレクター:オダギリ ナオ
協力:千代田中学校・高等学校(令和7年4月より当名称に学校名を変更予定)
衣裳協力:東京菅公学生服株式会社
主催・企画制作:ホリプロ/夕暮れ
宣伝アートディレクター:渋木耀太
宣伝撮影:YukinaoHirai(GR)/山嵜純也(ティザー)
宣伝音楽:揺楽瑠香 宣伝プロダクションマネージャー:マツモトタクロウ